(完)嘘で溢れた恋に涙する
数分後、結局さっきのように透に根負けした私は比較的客の少ないレディース物のショップにいた。


透はその持ち前のコミュニケーション能力であっという間に店員さんと仲良くなり、一緒に私の服を探していた。


すっかり蚊帳の外となってしまった私は、さして服に興味も持てず、ショップの前にあったベンチに座っていた。


が、少ししたら大量の服を抱えた透から呼びつけられ、試着室に連行された。


すっかり店員さんと意気投合した透は私をその人に頼むと、自分はまた服探しの旅に出てしまった。


「イケメンだし、優しいし、彼女の服選びに真剣だし、あんな素敵な彼氏さんそうそういませんよ。羨ましいです」


あまり私と年が変わらなそうな女性の店員さんは、透が選んだ服たちのハンガーを外しながらそう言った。


とてもお世辞とは思えない言い方に、彼氏じゃないと否定するのも面倒で愛想笑いをしておいた。


「でも彼女さんもお綺麗ですもんね。肌とか何か特別なケアとかなされているんですか?」


「いえ、そんな大したことはなにも」


それどころか何もしてない。


そんなお金はない。


「またまた~」


私が謙遜でもしていると思ったみたいだ。


そこでようやくハンガーを外し終えたみたいで、服を受け取り試着室に入るよう促された。


来たこともない形状の服に四苦八苦しながらも何とか上手く着終えて、外に出ると店員さんがわかりやすく歓声を上げた。


そこにまた新しい服を持った透も来て、私をじっと見つめた。


「いや、これじゃない。次のやつ着て」


「えぇ、もうこれでいいよ。十分お洒落じゃん」


「いやお前はまだ上を狙える」


もうふざけてんのか、真面目に言ってるのか区別もつかない。


反論してもどうせ通じないとあきらめて、うんざりしながらカーテンを閉め、次の服に腕を通し始めた。


< 363 / 381 >

この作品をシェア

pagetop