透明人間の色
だが、私たちは別にこのホテルの最上階にある高級レストランで食事をとるわけではない。
もちろん、ホテルの一室に入っていくわけでもない。
「お待ちしておりました」
地下にある会員制のお食事屋でご飯を食べるのである。
「今日もお二人ですね」
「うん」
晶人さんが頷く。しかも見せびらかすように繋いだ手を上にあげて。
だが、店の人も馴れたようなもので、営業スタイルを崩さない。
「では、食事はご用意してあるので何かあればお呼びください。部屋はいつもの一番奥です」
「うん。ありがとう」
なぜ、予め食事が用意してあるのかと一度晶人さんに聞いたことがある。
“美香ちゃんと話しているときは誰にも邪魔されたくないからね”
そう答えた晶人さんはイタズラっぽく片目を瞑って見せた。
真相はよく分からない。
「あっ今日はお肉料理だって」
奥まで歩く途中、思い出したように晶人さんは言った。
「ほんと?」
「ほんと。嬉しい?」
「………子供扱い」
晶人さんは笑った。最初はそれに私はむくれていたけど、やっぱり晶人さんの笑い声は心地よかった。私の口の端からほころぶのはやむを得ない。
今日はなんとなくいい日だ。
部屋に入った私たちは、間にごちそうをはさんで座った。
いつでもここは何を食べても美味しいのだけれど、今日は特別美味しそうだ。
そう嬉々として私がフォークを手に、肉を口に放り込もうとした時だった。
「最近、学校はどう?」
私の手は一瞬止まったが、やはり肉は口へと入っていく。私は口に何もなくなるまで口を開かない。
でも、その間晶人さんから目を一度もそらしはしなかった。
でも、晶人さんもそれは分かっているようで、答えを待つように自分も料理を口にしていた。
「………何もないよ」
やっと私がそう答えたときも、晶人さんはワイングラスを取っていた。