樫の木の恋(中)
「あははっ。お三方は仲が良いのですなぁ!」
突如官兵衛が口を挟む。先程までの緊張など何処吹く風で、大殿に会う前までの口調に戻っている。
恐らく今のやり取りを見て、大丈夫だと踏んだのだろう。
「まぁ織田家で唯一わしに文句を言える奴じゃからの。こやつ、以前わしに怒鳴りおったからな。」
「あ、あれは!」
恐らく浅井家の時の話だろう。追走を止めない大殿を咎めて、横山城落城を優先することを説得した一件だ。
「へぇ!秀吉殿が?」
「そうじゃよ。こやつ、わしが怒ろうとも引かんのじゃ。まぁ結局、秀吉の言う通りにして正解だったのじゃがな。」
大殿が懐かしそうに笑う。なんだかんだ、あの一件が何も咎められなかった事から、秀吉殿は大殿のお気に入りなのだと周りが思うようになっていた。
まぁ正しかったのだから、当たり前なのだが。
「それがしもあれはだいぶ肝を冷やしましたよ?大殿に噛みつくんですから。」
「いやぁ女狐かと思っていたら、とんだじゃじゃ馬ですな!」
「どーせ私はじゃじゃ馬ですよー!」
秀吉殿が拗ねると、大殿と官兵衛が大きく笑った。
大殿は官兵衛をいたく気に入り、城に泊まっていけと快く受け入れていた。