樫の木の恋(中)
「な?大殿はいい人じゃろ?」
「ええ、噂とはだいぶ印象が違いました。最初のうちは噂通りだなと思いましたがね!」
先に飲んでいろと言われたので、お言葉に甘えて三人で大殿が来るまで飲んでいた。
と言っても、話をする方が主で三人とも酒はそんなに進んでいなかった。
大殿が四人で飲もうと言い出したのだ。
「織田殿は秀吉殿の事が配下としても女としても好きなのですね。秀吉殿にだけ物凄く優しい目をしておりますもの。」
大殿がいないから、官兵衛がそんな事を言い出す。この男は変なところ鋭いから本当に厄介だ。
「なんじゃ官兵衛、お主鋭いのぉ。」
秀吉殿とそれがしが返答に困っていると、仕事を終えた大殿が入ってきた。
「おや聞かれてしまいましたか。」
「まぁな。」
深縹の着物に身を包み、にこやかに大殿が入ってくる。
そういえば秀吉殿も、深縹の色が多いな。そんなところでも大殿を参考にしていたのかと、少し嫉妬してしまう。
大殿がすっと腰を降ろし秀吉殿が酒を注ぐと、くいっと飲み干す。たったそれだけの動作一つ一つが様になっていて、色気すら感じてしまう。
「秀吉は元々わしのものだったのに、半兵衛に取られてしまったからなぁ。」
大殿が笑いながら、楽しそうに官兵衛に言う。しかしその裏に寂しさが見え隠れする。