樫の木の恋(中)
「この戦、負けるでしょう。」
低く、しかし皆にはっきりと聞こえるように告げる秀吉殿。だが、誰も受け付けてなどくれはしなかった。
「秀吉、お主わしを侮辱しているのか?」
「侮辱などしておりません。これが大殿が率いる隊だったとしても同じことを申すでしょう。」
凜と立っている秀吉殿は、黒い甲冑も相まって雄々しい。少し細身の体は誰よりも威圧的な雰囲気を纏っていた。
「柴田殿、撤退しましょう!」
「秀吉いい加減にせい!するわけないだろ!」
遂に柴田殿が声を荒げる。
秀吉殿はため息をつき、哀れみをもった目で柴田殿を見つめながら口を開いた。
「そうですか。」
「ああ、そうだ。あまり総大将のわしに盾つくな。」