樫の木の恋(中)
珠殿に声をかけられたが、それどころではなく秀吉殿の後を追った。
廊下で小姓を連れて歩いていた秀吉殿を後ろから抱き止める。
すると秀吉殿は小さく笑って、小姓に先に行くよう伝えた。
「来ると思ったわ。半兵衛も好きものじゃのぅ。」
「秀吉殿、それがしは秀吉殿しか入りませぬ。」
「別に別れるわけではないのに。」
逃げられないよう強く抱き締める。こんな風に抱き締める事自体久しくて、秀吉殿の香りがこんなにも近くに感じられて嬉しく思う。
だが、それでも辛くて、このお方はそれがしの事を軽く考えておられるやもしれないのに、手放すことなど出来なくて。
「まったく、半兵衛はこの間わしと話した時、不満そうにしておったではないか。わしが男をたぶらかすことを良く思っていなかったではないか。嫌なのじゃろう?そういうのが。」
「……嫌ですが、秀吉殿の事が好きなのです。」
「融通のきかんやっちゃなー。珠殿ならその必要もないのだから、お主にだけ尽くしてくれるぞ?」
「…秀吉殿以外の女子など微塵も興味がありません。」
そういうと秀吉殿は笑った。
そしてそれがしの腕を剥がし、こちらに振り向く。
「わしと別れたくないのなら、今夜珠殿を抱け。それが条件じゃよ。いいな。」
「…嫌です。ふざけないでくだされ。」
「ほう、殿に向かってそのような口をきくか?わしの言うことが聞けんのか?なら、別れるしかないよのぉ。」
「……っ。」
秀吉殿の殺気にあてられ、辛くなる。
なにも言えなくなったそれがしを満足気に見た秀吉殿は、小さく笑いながら去っていった。
もう分からなかった。
秀吉殿が何を考えているのか。
付き合うことを続けるには、別の女子を抱かなければいけないなんて。
だが、そんなことを出来るはずもなく途方に暮れるしかなかった。
秀吉殿はそれがしが嫌いになってしまったのだろうか。
他の男と関係を持って欲しくないと願ったのが、そんなに秀吉殿にとって面倒と思わせてしまったのか。
もうなにもかもが嫌になった。
