フェアリーテイルによく似た

自分の分を素早く食べ終えた陽成さんは、頬杖をつきながら、私が食べるのをじっと見ていた。

「ごちそうさまでした。すごくおいしかったです」

視線には気づかないふりをして、緊張を隠しながら全部食べ終えると、陽成さんは食器を片づけてから、私の目の前に紙袋を置いた。

「あ、これ、私のじゃないです」

今朝奈津芽さんが私の忘れ物だと間違えた、例の紙袋だったのだ。

「いえ、灰川さんのです。俺が、今日渡すつもりだったから」

受け取るようにずいっと押しつけられるので、戸惑いながら箱を取り出して開けると、中身は黒のパンプスだった。
しっかりとした革の。

「いただけません! あんな安物の靴は気にしないでください!」

箱に戻して陽成さんの方に押しやる。

「気にしてません。むしろ好都合だったって喜んでるくらいだから」

箱から靴を取り出した陽成さんは、

「俺に幸せを運んで来てくれるように、魔法をかけておいたのに」

と、蓋をひっくり返した。
そこに貼ってある付箋には携帯電話の番号が書いてある。
陽成さんは靴を持って私の足下にしゃがみ込んだ。

「これを履いて、毎日俺に会いに来て」

私の足からマジックが塗られた靴が脱がされ、しっかりしているのにしなやかな革の感触が足に当たる……当たる……当たったまま……。

「あれ?」

「これ、サイズ小さいですよね?」

「え? でも22.5cmってこの前確認したのに」

「ああ、この靴、表記されてるサイズより少し大きめなんです。普通は23.0cmを履いてます」

「…………」

「魔法、効かないかもしれませんね」

うずくまって頭を抱える陽成さんの上に、遠慮のない笑い声を落とす。

「あははははははは!」

「あああああ、恥ずかしいーー! サプライズなんてするもんじゃない!」

「これ、サイズ交換してもらえませんか? レシート持ってます?」

「レシート……ある! 明日、23.0cmを用意するからもう一回やり直して!」

私は靴なしのままイスから降り、立ち上がろうとする陽成さんを押し留めるように首に腕を回した。

「魔法なんてなくても、毎日素足でだって会いに来ます」

初めて味わう陽成さんの唇は、たぶん卵や唐揚げの味なんだろうけど、もうよくわからない。
さっきの卵よりも、もっとふわふわでトロトロ。
日々亭のどんな朝餉よりも、さっきの夕餉よりも、これが好きって言ったら、陽成さんは喜ぶのかな? 悲しむのかな?

そういえばシンデレラのガラスの靴は、魔法じゃなくて、魔法使いからのプレゼントだ、という説があるらしい。
だから消えなかったんだって。

毎日だって会いに来る。
魔法じゃなくて、会いたいから会いに来る。
その方がずっと幸せ。

少しだけ離れた陽成さんが、唇を触れさせたまま笑う。

「━━━━━カボチャの味」

「カボチャは嫌いですか?」

「今、好きになった」

きっとこれは、十二時を過ぎても、朝が来ても、ずっとずっと解けない確かなもの。











『毎日俺のところに戻ってきて。脱げないようにストラップ付きにしたんだから。それでも魔法が効かなかったら、俺が会いに行く』

end



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