守神様の想い人
守神様への気持ちに気づいてしまってからは、守神様を思ってはため息ばかりついていた。

朝目覚めてから、眠りについても夢の中でまで………………。

「サァラ、どうしたの?なんか悩み事でもあるの?………。ため息ばかりついてるじゃない。」

リジュアが顔を覗きこみなから様子をうかがうように訊いてきた。

「なんでもないわ。大丈夫よ。」

そう答えるしかなかった。

私の気持ちが満たされることはないと分かっていたから。



村には落ち葉がしきつもり、風が冷たくなってきた。

私は相変わらずの毎日を送っていた。

畑仕事をしていると、山仕事をしていた男衆がドヤドヤと騒ぎながら帰ってきた。

「早い時間にどうしたんだろうね?何かあったんじゃないかね?」

畑仕事の手を止め、母が心配そうに目をやった。

私も何気なく目をやると、一人抱えられて運ばれている人がいることに気がついた。

「怪我でもしたのかしら?」

「たいへん。村長に知らせて、処置してもらわないといけないね。サァラ、先に村長んとこに走ってくれるかい?」

「わかった。」

私たちは道具を置いて、私は村長へ知らせに行き、母は抱えられている人の様子を見にいった。

幸い、命に別状はなく、療養すれば元に戻る怪我だということで、皆はホッと胸を撫で下ろした。

「しかし、いつもは向かってこない奴らまで妙に気が立っていて、今年の山は危なくてしょうがねぇ。」

「雪の前に実を集めておきたいんだが、そんなことで危ないうえに、今年は山が荒れていて、実り自体が少ないんだ。きっとやつらの機嫌が悪いのも、それが原因かもしれねぇなぁ。」

治療を終えた村長と、山から帰ってきた男衆がそんな話をするのを横で聞いていた。

(荒れてる?………………山が。)

やはり思うのは守神様の事だった。

(なにかあったのだろうか?)

神様に何かなんてあるはずもないのだけれど、気になってしょうがなかった。

残りの畑仕事を終わらせ、家に帰ってからもずっと頭を離れなかった。

『自分の気持ちは大事にしなきゃだめだよ。』

不意にヨシュの言葉が頭に浮かんだ。

(会いたい………、ひと目でもいいから守神様に。会いにいこう。)

雪が降りだせば森には入れなくなる………、行くなら今しかない。

そんなことを考えながら、はやる気持ちを抑え仕度をして、母に心配をかけるとは知りつつも、『夜にはもどります。』とだけ書き置きして、次の朝早く、まだ夜が明けないうちに村を出た。

守神様のいらっしゃる森の奥までは半日以上かかる。

私は休まないで歩き続けた。

いよいよ、森の深くなってきたところにさしかかり、道らしき道もないところを守神様に会いたいがため必死に歩いた。

山の仕事をする男衆がつけている目印を探しては奥へ奥へと進む。

辺りは昼だというのに暗く、空を仰いでも、木々の隙間にチラチラと日の光が見えるていどだった。

薄暗い中を次の目印を遠目に見つけ歩いていた、その時、なにか違和感に気づき足を止めた。

自分が踏んだのではない、小枝の折れる音がしたからだ。

じっとしていると、自分は止まっているのに、落ち葉を踏む音が微かに聞こえる。

(なにかいる。)

男衆の話を思い出した。

『いつもは向かってこない奴らまで妙に気が立っていて、今年の山は危なくてしょうがねぇ。』

獣に襲われはしないか考えなかったわけではなかった。

しかし、撃退する術(すべ)なんて私は持ち合わせていない。

嫌な汗がじんわりと背中を濡らした。

心臓の鼓動が早さを増し、全身に鳥肌がたち、小刻みに体が震えだす。

近くで小枝の折れる音が響いたとき、私は考えるよりも早く駆け出していた。

後で獣が小さく唸るのが聞こえる。

私は振り向きもしないで必死に奥へ奥へ走った。

ここで死んでしまったら守神様に会えない。

会いたい………………、守神様に。

目を開けているのか閉じているのか分からないほど、周りの景色が見えないくらい必死に駆けた。

「守神様っ!」

私は自分が叫んでいることにも気づかず、ひたすら奥を目指した。

しかし、突然体を打ちつけられる傷みを感じ、気がつけば私は地面に押さえつけられていた。

「ああっ!」

もう、守神様に会えない………………

強く閉じた目蓋に一瞬守神様が見えた気がした。

不思議に傷みはなく、私は暗い闇へと墜ちていった。
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