御曹司を探してみたら

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「早宮杏という女性はいらっしゃるかしら？」

意匠設計部のフロアに凛とした老婆の声が響いたのは、ランチタイムが過ぎた午後1時過ぎのことであった。

言うまでもなく周防建設のセキュリティは万全である。

入退社時には必ず社員証をセキュリティゲートに通さないといけないし、来客や部外者が容易に立ち入りできないように、社内の各所はカードキーで入室を厳しく制限されている。

普通の老婆がフロア内を徘徊することなどあり得ない。

……つまり、この老婆は普通の人ではないのだ。

その証拠に背後に黒スーツの屈強な男性を従え、なお威風堂々と背筋をシャンと伸ばして立っているではないか。

「あのう……早宮は私ですけど……」

皆の視線を一身に浴びつつ、恐る恐る挙手をする。

白髪を見事に結いあげ仕立ての良い着物に身を包んだ老婆は、口元を袂で押さえコロコロと笑った。

「まあまあ。あなたが早宮さん？」

「失礼ですが……どちら様でしょうか？」

こんなに品の良さそうなおばあさんとお知り合いになった記憶は一切ない。

「ご挨拶が遅れて申しわけないわ。わたくし、周防福子と申します。永輝の祖母です」

老婆は私を視認すると、ゆっくりとその腰を折って一礼した。

武久の祖母って……。

もしかして……。

周防一族の福子夫人！？