御曹司を探してみたら
「ごめんなさいね、仕事中に。永輝からあなたのことを聞いて、もう待ちきれなくて……」
そう言うと、周防建設会長夫人は抹茶味のアイスクリームの一口頬張った。
お座敷のお茶屋さんだからてっきり本物のお抹茶が出てくるかと思ったらそうでもないらしい。
「嬉しいわ。あの子ったら、こんなに可愛い人のことを黙っているなんてひどいわよねえ?どうぞ召し上がって?本当においしいのよ。ここのデザートはどれも絶品なのよ」
「はい……」
テーブルの上には福子夫人が注文してくれたチョコレートケーキが一皿置かれている。抹茶のアフォガートをかけて頂くそうだ。
このまま手をつけないのも恐れ多いので、フォークで切り分けてパクリと一口頂く。
あ、美味しい。
「どうかしら?」
「美味しい……です」
「そう、良かったわあ」
正直に感想を述べると、福子夫人は安心したように微笑んだ。笑うと顔の皺がより一層深みを増した。
私も福子夫人が気さくな方みたいで安心した。
……まさかあの福子夫人がここまでフレンドリーなおばあちゃんだったなんて思わなかったけど。
亡くなった先代社長の妻、福子夫人の人物像は多くの謎に包まれていた。
体調の悪化に伴い先代が引退してからは、福子夫人が表舞台に立つことが減り、その人となりを知る人物が少なくなったからである。