御曹司を探してみたら

(説得って……)

福子夫人のお願いは武久の希望とは正反対のものだった。

私は自分の見通しの甘さに、人知れず唇を噛んだ。

味方だからといって、いつも望む方向へ助けてくれるとは限らないのだ。

「福子夫人は……本人にその気がないことをご存知ですか?」

「ええ、だから困っているのよ。永輝ったらいくつになっても本当に頑固なんだから……」

福子夫人の口調は聞き分けのない孫に手を焼いている祖母のそれである。

「あの……差し出がましいようですが本人が望んでいないことを強要するのは横暴なのではありませんか?」

赤の他人である私が物申すのはおこがましいのだが、ここは一発言ってやらないと気が済まなかった。

本来なら怒られても仕方ないのに、福子夫人は口の端をわずかに上げてニッコリと笑ってみせた。

「杏さんはどこまで知っているのかしら?壱くんと永輝が次期社長候補として挙がっているのは聞いた?」

「はい……」

「私は壱くんと協力してふたりで周防建設を盛り立ててくれるのが一番だと考えているの。確かに永輝は社長には向いていないかもしれない。けれど、持ち前の頑固さや潔癖さは、一定の支持を集めるでしょう。永輝の力は周防建設に必要だわ」

福子夫人は武久本人よりも、よっぽど武久を評価している。

激動の時代を生き抜いた女傑として、ただの孫可愛さで言っているわけではないのは明白であった。

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