御曹司を探してみたら

私は意を決して、タワーマンションという名の魔窟に足を踏み入れた。

魔窟の入口には専属のドアマンがいて、一階のロビーにはコンシェルジュが常駐していた。

「すいません。ここの23階に住んでる武久……いえ、周防さんに会いにきたんですけど……」

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

ベテランと思しきコンシェルジュさんは明らかに場違いな私にも笑顔で対応してくれた。

「早宮です」

「少々お待ちください」

その言葉に従って待っていると、しばらくして別のコンシェルジュさんがバックヤードから出てきた。

「こちらへどうぞ」

コンシェルジュさんが案内してくれたのは高層階専用のエレベーターだった。

専用のカードキーがないとエレベーターでさえも出入り出来ない仕様になっているようだ。

私の代わりにエレベーターの階数ボタンを押すと、扉の外に出て深々と一礼をする。

社員教育が行き届きすぎていて、何だか余計に怖くなる。

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