暁色のメモリートリップ

「もしかして、さーちゃんか?」


話しかけてきたこの人こそ、結城一颯だ。


「もしかしてゆうくん…?久しぶり!」


私は手を振る。“久しぶり”とは、小学校が違ったから、会うのは6年ぶりだからだ。


私は10年ぶりだけどね。ほんとに久しぶりに会った。涙が…。まぁ、花粉症ということにしておこう。


「さーちゃんもB組?」


…って、泣いてる暇はない。


「そうだよ!一緒だね」


「…ん?なんで一緒って分かったんだ?」


「え?だって『さーちゃん“も”』って言ってたでしょ?だからB組なのかなーって」


私がそう言うと、ゆうくんは笑い出した。


「観察力は昔からだもんな。なんか幼稚園の頃に戻ったみたいで安心した」


ゆうくんはそう言い微笑む。その笑みは、幼稚園から同じ、優しい笑み。私も少し安心した。


階段を上がりながら、ゆうくんを見る。高い鼻、少しつり上がった赤い瞳に、赤茶色の髪。…私とあまり背は変わらない。声質や見た目なんかは変わったものの、そこだけは変わらなかったようだ。


ゆうくんがこっちを向いた。口角が上がる。小さい声でからかう様な、笑いが混じった声で言う。


「ダンゴムシ研究会…」


「…あれは!観察が好きだったから!」


幼稚園の時、勝手に会を作って遊んでいた時のことを思い出し、赤面する。死ぬほど恥ずかしい。


「そっちこそオカルト研究会のクセに!」


「ダンゴムシよりかはマシだろ」


ぐぬぬ…言い返せない。


ゆうくんが吹いた。


「やっぱりさーちゃんは面白いな」


赤面する私に頭をポンポンする。…背伸びしながら。


その光景に私も吹く。手がプルプルしているのが、私でも分かったからだ。


「頑張れ」


私はそれだけ言った。ゆうくんも意味がわかったらしく、赤面している。可愛いと思ってしまう。


私はあることに気づいた。


まだ教室に入っていないと。
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