ばいばい、津崎。



「面白い大人なんて、いんの?そういうもんじゃね?」

津崎らしい言葉に、私は肩を落とすように笑った。


「でも充実してる人はいるよ。結婚したり子育てをしたり、キャリアを積んで自分の夢を追いかけたり。そういう部分では私にはなにもない気がする」


べつに結婚したいわけでもないし、仕事で成功したいって野望もあるわけじゃないけれど、私のように立場も私生活も中途半端な人間には生きづらい時もある。


「じゃあ、これから見つければ」

「え?」

「つまらない大人にならないために」

その瞬間、風にのってプルメリアの花の香りがした。それは優しくて甘い匂い。


そして私たちは日が暮れる前に帰ることにした。帰りの自転車では津崎がペダルを漕いでくれて私は後ろ。

男の子とのふたり乗りに今さら緊張しながら、私はどこを掴んでいいのか分からずに津崎のTシャツを小さく握る。


「わ、私、重くない?」

「あー重い重い」

そんな返事が返ってきたけれど、私と違って自転車がふらつくこともなく、スピードも私が漕ぐより速かった。

コンクリートに映る影が、やっぱりどこかくすぐったい。

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