朝はココアを、夜にはミルクティーを
「三十二歳で転職していきなり店長って、他の方々がいい気しないかなあと思ったんです。だから年齢経験関係なく、一緒に働く人には隔てなく敬語にしようと決めていて……」
「じゃあこれからもずっと?」
「ご希望とあらばやめます。ただ、職場で公私混同してしまいそうで怖いですが」
……たしかに大熊さんと浜谷さんのツートップにこれでもかと言うほどからかわれてしまいそうなのは目に見えていた。
それでも寝返りをうって彼の腕枕に頭を乗せた私は、不満を続ける。
「名前だって……コマチでは亘理さんだけ私のこと名字で呼びますよね」
「うーん。そうなると、使い分けが難しくなってきますよ。仕事中は“瑠璃さん”、二人の時は“瑠璃”。そういうことですよね?他のみなさんの目もありますし」
「……昨日の夜は瑠璃って呼んだくせに」
「す、すみません。舞い上がっていたせいで色々と粗が……」
別に困らせたくて言ってるわけじゃないんだけど、敬語はどうしても他人行儀な感じがして、せめて二人の時はやめてほしいという女心を理解してほしかった。
「みんなにバレても、私は別にいいんです」
彼の胸に身を寄せて、ぽつりと本音を漏らす。
「だって、こんなに素敵な人が恋人になってくれたなんて。自慢したいくらいなんです、本当は。……こんなこと言ったら、呆れられますかね」
「朝からやめてください。可愛すぎます」
「ちょっ……!人が真剣に話してるのに!」
「俺もずっと真剣に話してますよ!」
私たちはベッドの中でひとしきり押し問答をしたあと、あははと笑い合った。
「もういいです、どっちでも」
これ以上のワガママは神様からバチが当たりそうなので、やめることにした。
私はやっとのことで身体を起こして背伸びをする。
「ココア作ります。亘理さんも飲むでしょう?」
「飲みます。ありがとうございます」