朝はココアを、夜にはミルクティーを
紗由里ちゃんから辞めると聞かされてからニ週間ほどで、他にも数名の従業員から今月いっぱいで辞めるという話を聞かされた。
理由はみんな紗由里ちゃんと同じで、シフトを減らされて稼ぐことが出来ないからということだった。
その中の一人、パート歴の長かった浜谷さんにはこう言われた。
「実のところね、私……来月からブラマで働くことになったのよ!心苦しい気持ちはあるんだけど、家から近いしシフトも融通きくし……申し分ないのよ。ねぇ、瑠璃ちゃんもどう?契約切られたらブラマにいらっしゃいよ!まだまだ人手が足りないって募集してるわよ!コマチよりマシよ!」
ぐらっ。
一瞬どころか普通に気持ちが揺れたのは隠し切れない素直な感情である。
こっちは生活に関わる死活問題なのだから仕方がない。
だけどこのコマチの良さも捨てがたい。
職場の空気感が私に合ってるような気がしてなかなか乗り換える気になれなかった。
「えーっと……、白石さん。ちょっといいかな?」
浜谷さんからブラマへのゴリ推しをされている最中に、会話の合間を縫うように店長から手招きされた。ご指名は私。
ギクッと鳥肌がたった。
これはもしや、契約は更新しないとの実質クビ宣告?
もしくは、自主退職を促すような大幅な減給?
どちらにせよ、いい予感はしなかった。
重い足取りで店長の丸い背中にくっついていくと、なにやら店舗裏の会議室に通された。
そこには予想に反して、私以外にも数名の正社員や契約社員のみんなが待機している。
━━━━━まさかまさか、この店舗を閉店するとか?
そうとしか考えられないこの状況で、店長はコホンとひとつ咳払いをした。
「これで社員は揃ったね。単刀直入に話したいんだけどね、来週から新しい店長がここへ来ます」
「━━━━━え!?」
おそらくここにいる全員が、私と同じようなことを考えていたんだと思う。
思わぬ展開を見せたのでみんなキョトンとして目を見開いていた。
「さすがにこの売上じゃあね、少し変えていかないといけないねってことになってさ。僕はいったん本社へ戻されて、本社から違う人が来ることになりました」
肩の荷が降りるよ、とばかりに笑いながら店長が頭をかく。その姿はやっぱり呑気そのもの。
こういうところも私は嫌いじゃなかったんだけど。
「新しい店長さんってどんな人なんですか?」
どこからともなく、不安げな声が上がる。
この店舗は、今の店長になってかなり長い。
いきなり新しい人が来ると言われればウマが合うかどうか気になる人がいるのは当たり前である。