記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「楽な服に着替えてくるから、少し待ってろ」
ふわりと笑った卓馬は、斜め向かいにある自室へと姿を消した。
暫く窓の外を眺めていた雪乃は、物音で出入口に目を向けた。
そこには、もう出掛けないということを表すように、黒いロングTシャツと灰色の緩めのズボンを穿いた卓馬が立っていた。手にはハードカバーの本と眼鏡を持っている。
「少しだけつめて」
ベッドに横になって枕を窓側に少しずらすと、彼は椅子に置いてあるクッションを背当てがわりに立てかけると、ベッドの上掛けの上に座った。伸ばした足を足首で交差させて、眼鏡をかけて本を開く。
「ほら、安心して寝ろ」
「……ありがとね、卓馬」
雪乃は卓馬の方を向きながら目を閉じると、規則正しくめくられるページの音だけが、子守唄のように雪乃を眠りへと誘った。