記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「どうした、雪」
コートを握る雪乃の手が、ぴくりと揺れた。大した力が入っている訳ではないから、コートを引き寄せて部屋を出ることも出来る。
けれど、卓馬はそうしなかった。
暫く待っていると、雪乃は恥ずかしそうに口を開いた。
「寝付くまで、一緒に居てくれないかな」
その言葉を言うのに、雪乃は今ある勇気を振り絞った。これまで、人に甘えたことはないし、甘えたいとも思ったことがなかった。今回、朔が帰ってきたことと、見知らぬ男が朔だったという事実は、雪乃の精神を擦り減らすものだった。
心細い。
決して変わらない存在である卓馬に側に居てほしい。
そう考えたら、言葉よりも先に手が動いていた。
長い沈黙の後、卓馬は歩き出し手の中からコートの裾が滑り出ていく。
「あっ……」
思わず出た声に、出入口で止まった卓馬が振り返った。