記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
確かに、見栄えのいい男だとは雪乃も思う。ただ、昔の印象と違いすぎて、彼女の中では戸惑いが大きい。
始めて出会った時の朔は、細くて背も小さかった。人見知りで、いつだって雪乃の後ろに隠れているような男の子だった。
変わったのは、高校三年になってから。
年々、背が伸び、外国の血が混じった外見に磨きがかかりはじめ、朔は女子生徒の視線を集めるようになっていた。
それと平行するように、雪乃は女子に呼び出され「あんたは朔くんに似合わない」だとか「近づくな」なんていうことを言われるようになった。
陰口なんて気にしなかったが、それが本格的に暴力に近いものになった時、雪乃はさすがに距離を置くようにした。
だから、進学する大学も知らなかったし、次第に朔の周りには別の友人達が増えていき、だれだれと付き合っているだとか、セックスが上手いだとかいう噂が目立つようになった。
幼い頃からの恋心は、不特定多数とセックスしているという事実に軽蔑した。
そんなことを雪乃が考えていると、悪意のこもった声が聞こえてきた。
「向かいにいるのって、彼女?」
「まさか! あんなダサいブスが彼女のはずないでしょ。相手にするはずないわよ」
小さな声で繰り広げられる中傷を含む会話に、頬がカッと熱くなる。ここから早く出たい。
普段、カフェになんて立ち寄らないのに、朔に誘われるまま来たのが間違いだった。
早く飲み終えて、ここから逃げなくちゃと無理矢理カフェモカを喉に流し込んでいると、ガタッと椅子が鳴った。