記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!



 短い黒髪と明るい茶色の瞳をした卓馬は、背が高い上に体を鍛えており野性的な印象で、近寄りがたいのに怖いもの見たさで近寄りたくなるような魅力がある。

 なにより、彼は一度自分の懐に入れた相手を男女問わず大切に守る包容力を兼ね備えているのだ。

 そのため、別れた女性たちが卓馬を悪く言う事はなく、男女の関係から友達に戻った後でもバーに足を運ぶ女性も少なくない。

 ただし、親しくしている雪乃の悪口なり、邪魔者扱いした女性たちはもれなく卓馬に絶縁宣言され、友達にすら戻れなくなる。

 卓馬の中でも、雪乃は男女の枠を越えた特別な位置を占めているのだろう。

 中にはおかしいだとか、付き合えばいいのにと冷やかされる時も学生時代には多かった。けれど、卓馬と恋愛感情を持って付き合うと考えた時、雪乃は首を傾げた。

 想像がつかなかったのだ。

 卓馬と手をつなぎ、キスをして愛を囁き合う。そして、セックスをすると考えた時に、違うと思った。

 彼とセックスするという想像が何一つ出来なかった。

 雪乃にとって卓馬は家族であり、友人であり、まるで兄妹のような永遠に変わることのない絆を感じている。

 それだけに、今回の事件はショックだったのかもしれない。

 酔って思考回路がぐちゃぐちゃの自分が、誰かに連れていかれるのを黙認したのかと思うと……。

 全身を洗い流した雪乃は、手早く体を拭いて服を身につけると、スマートフォンを手に取った。

 画面をタップして、電話をかけた相手はもちろんーー。
 


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