記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「もしもし、雪?」
二コール目で出た相手の声は、どこか眠そうだ。
明らかに寝起きという相手の様子に、雪乃は苛立った。
「もしもし、雪? じゃないわよ、卓馬!」
「なんだよ……こんな朝早くから」
「他に何か言うことはないの?」
「はあ? 言う事ってなんだよ」
ぶつぶつ言いながらも体を起こしたのか、衣擦れの音が電話越しでも聞こえる。
「昨日はよくも見ず知らずの男に売ってくれたわね」
スリッパが床を擦る音が響きはじめた頃、雪乃は唸るように言った。
だが、呑気な卓馬は何か機械をいじっているような音を立てている。
「何の話だ? 話がよく見えないんだが」
「昨日、あんたの店に行って愚痴ったでしょ? そのあと、どうなった?」
「確かに愚痴りに来たけどよ……お前、いつの間にか帰ってただろ。泊めてやろうとしたのに」
「私、自分で帰ったの?」
まったく記憶にない。泥酔の末のお持ち帰りじゃないってこと?
想像もしなかった事実に、衝撃を受けていると卓馬の声が低くなった。