梟に捧げる愛

「こういう言い方はよくないんだろうが、お前がチヴェッタ嬢を気に入っても、階級クラスが違う。お前は未来の侯爵で、彼女は魔法使い。お前、チヴェッタ嬢の本名だって知らないだろう?」

 魔法使いは古来より、本名を隠し、魔法名を使う。本名を知られると、呪いをかけられたとき、その効果が増してしまうからだ。
 何より、本名はとても大切なもの。本名を使い放つ魔法は、魔法名を使って放つ魔法の何倍も強い効果を発揮するのだ。
 だから魔法使いは、本名を隠す。本名を教えるということは、それだけ相手を信頼している証とも言えた。
 チヴェッタは梟。師匠のエキドナは毒蛇という意味だ。
 当然、アイザックはチヴェッタの本名を知らない。

「まるで私が、彼女に恋してるみたいだ」

「──違ったのか?」

 ジェラルドが、心底驚いた目で、アイザックを見た。
 きっと騎士団のほとんどの者が──もっと言えば、王宮中の者がそう思っているのではないだろうか。

「恋、恋ですか……。よくわかりません」

 アイザックは貴族で、騎士。果たすべき義務と、国を守る責任ばかりを考えて生きてきた。
 いつか妻を娶り、子どもを持って、侯爵となるのだろう。恋については、一度も考えたことがなかった。
 妹はよく、恋愛小説を読んでは夢を見ていたようだが、アイザックにはよくわからないのだ。

「ま、まぁ距離を置けばチヴェッタ嬢への嫌がらせもやむだろう」

 ジェラルドはこれ以上、この話をするのは危険だと思ったようだ。恋とはなんですか──などと聞かれたら、答えることなどできないのだ。
 アイザックは優秀な部下で、今は第五師団の小隊長。アイザックは侯爵家の嫡男なのだから、もっと高い地位に就けたはずなのに、それを拒んだ。腕は良かったから、すぐに小隊長になり、もうすぐ中隊長になってもいい頃だろうと周囲が噂している。
 それでも、どんなに優秀な人間にも欠点はあるものだ。アイザックの場合は、色恋だろう。
 アイザックは誰にでも紳士的に接するが、池に落ちた女性を抱え上げ、家まで送り届けるようなことはしない。せいぜい上着を貸して、手も貸して、近くまで送り届ける程度だろう。
 アイザックは気づいていないのだ。自分がチヴェッタに向けている感情が、どういうものなのかを。

「それだけは、自分で気づけよ。アイザック」

 ジェラルドは力を込めて、アイザックの背中を叩いた。油断していたアイザックが、その勢いで贈り物の山に倒れ込んだのは――見なかったことにしておいた。


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