梟に捧げる愛

「無表情すぎて、俺には全然、申し訳なさそうに見えないんだが……」

 アイザックは、家族からも言われ続けていた。お前はちっとも、表情が変わらない、と。楽しいときも、悲しいときも、疲れているときも、表情が変わらないらしい。
 アイザック自身は、楽しいときは笑っているし、悲しいときは悲しい顔をしていると思っているのだが、どうも周囲の人間からは無表情だと言われ続けている。

「チヴェッタ嬢はよくわかるな。お前の表情が」

「そうですね……」

 チヴェッタとアイザックの出会いは、とある一言から始まる。
 ──貴方、かなり疲れているみたいね。休んだらどう?
 周囲の人間──実の両親すら見抜けないアイザックの表情の機微を見抜いたのだ。
 あの時は本当に驚いた。無表情に見えるのだろうけど、確かに驚いたのだ。

「けどそうなると、私がチヴェッタと距離を置けば問題は解決できると?」

「多分な」

 ジェラルドは頷き、まだ着替えの済んでいないアイザックを更衣室ではない別の部屋へ連れて行った。
 その部屋には、アイザックに好意を寄せる女性達からの贈り物で溢れていた。多くは侍女からだ。中には貴族の令嬢からのものもある。
 実家に届けるよりも、こうして騎士団に送りつけた方が確実だと知っているのだ。アイザックは嫡男なのに、侯爵家の領地にはほとんど帰らないから。

「どうかしたか?」

「いえ。ただ……チヴェッタに会えないのはなんだか、寂しいな、と思いまして」

「そ、そうか……。無表情でそういうこと言うなよ」

 目を伏せると、テーブルに置かれた贈り物が視界に入り込んだ。丁寧に包装されていて、中身はお菓子だとか、刺繍入りのハンカチだったりする。
 アイザックはあまり、こういうものに興味がない。母親や妹に贈り物を選んだりするが、店の者が今「人気なんですよ」「売れ筋です」というものを適当に買って贈るだけなのだ。

「…………」

 自分宛の贈り物を見つめながら、アイザックは考える。贈り物は、時として謝罪の意味を含むこともあるのだし、迷惑をかけているのが本当に自分なら、何か贈った方がいいだろうか?
 いや、自分が会いに行ったり贈り物をしたりすれば、ジェラルドのいう悪循環がひどくなるだけ。距離を置くのが最善なのだ。


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