梟に捧げる愛

 夜──チャールズ王太子の十三歳を祝う舞踏会は、とても豪華だった。国中の貴族が集まり、美しく着飾った令嬢達が、会場に華を添えている。今回は、国内の者だけを招待したそうだが、一番上の王女の婚約者と、その関係者は招待されている。婚約者は、隣国の王子だった。
 チヴェッタはエキドナと共に、ホールの二階にいた。いわゆる、階上席だ。舞踏会の会場にいるとはいえ、ふたりはドレスを着ていない。黒いローブを着て、中に着ているワンピースも黒。絵に描いたような、魔女の装いだ。

「ヴェンデル伯爵がいるわ。騎士服ということは……出席者ではなくて、護衛としているのかしら?」

 エキドナは杖を片手に、ホールを見下ろしている。
 チヴェッタは、エキドナの視線の先を追う。何日かぶりにアイザックを見たけれど、彼は元気そうだった。

「退屈そうな顔」

「そう? 私には、普通に見えるけど」

 アイザックは今夜も、無表情だった。令嬢達の視線を集めていることに、気づく様子もない。
 ふいに足音が聞こえて、チヴェッタは視線をホールから階上席へ戻した。

「お待たせいたしました」

 階上席に現れたのは、エルネスタだった。手には紙と、ペンを持っている。

「王太子のそばにいなくてもいいの?」

「他の侍女がおりますので。──チヴェッタ様は、チャールズ様のそばに来られた方との相性を占ってください。私が令嬢を見て、書きとめますので」

「わかりました」

 チヴェッタは、仕事を始めることにした。少しばかり身を乗り出し、今夜の主役であるチャールズを見る。
 幼い王太子は、子どもらしくない笑みを浮かべて、出席者の挨拶にこたえていた。
 桜色のドレスの少女が、チャールズに挨拶をしている。

「あの方との相性は悪くないけれど、子どもは望めない」

「はい」

「次の方は……喧嘩が絶えない。子どもは産めるみたいだけれど、愛人を作る未来が視えるわ」

「はい」

「あの方は……浪費癖があるみたい。子どもは……女の子だけ」

「はい」

「あ、あの方との相性は悪くないわ。でも、婚約の段階で恋人と駆け落ちしてしまうみたい」

「はい」

 エルネスタは余計なことは一言も言わず、ペンを走らせる。
 エキドナがチラリと覗き見してみたが、暗号で書いているようだった。何が書かれているのか、さっぱりわからない。

「あの人との相性は最悪。男の子をふたり産むけど、一方しか愛さない」

「……なんだか、運命の相手はいないみたいね」

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