さくら、舞う。ふわり

 昨夜のうちから、両親や妹には友達の誕生日だと偽り、従って早朝よりキッチンで作業をしても、怪しまれずに事を為し終えることができた。

 ペーパーバッグに収めたケーキを取ると、由衣は一路綾人の許へ向かうのであった。

 ○ ● ○

 高等部も三年になると、皆それぞれ進路を決め始める。

 由衣はまだ自身の行く末が定まらず、それなら大学で決めればいいと、両親によって進む大学を決められてしまう。

 惰性(だせい)ではあるが、これまで両親に逆らったことのない由衣のこと、別段とフラストレーションを感じることもなく応諾した。

 そして綾人はというと、出逢った頃に教えてもらった、フレンチ・シェフの夢に向かって、今も猛勉強をしている。

 シェフになるためには、料理の腕をみがくだけでは、まだ足りないらしい。それはセンスを、それから豊富な知識を、繊細な味を見極める舌に至るまで、努力を惜しむ訳にはいかないのだ。

 日々を努力と惜しむことのない彼を応援し、いつしか由衣も綾人の店を手伝いたい、そう秘かに思い始めたある日のこと。

 いつものように、由衣が綾人の部屋にお邪魔していると、彼から思わぬ話を聞かされた。

『俺さ、高校卒業したらフランスにいく』

 初めなにを言っているのか理解できず、由衣は必死にフランスという単語を脳裡で反覆する。
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