さくら、舞う。ふわり
悩みに悩んだすえ、由衣は最近できた友達に相談した。
彼女のだした提案はとてもシンプルで、『ケーキでも焼いてふたりで祝うのはどうか』というもの。
けれども一度とてケーキなど焼いたことのない由衣にとって、それは見上げるほどに高いハードルといえよう。それでもサプライズとしては、申し分のない提案でもあった。
それからというもの、由衣は友達の家で特訓に明け暮れた。無論のことそれは、完璧なケーキがつくれるようになるための、血のにじむような努力に他ならない。
月のお小遣いも材料費と消えてゆき、最後に残ったなけなしの資金で、綾人のためのケーキ材料、それからキッチン雑貨店で見つけた、フランス製のたて型ピーラーを購入する。
本場フランスのフレンチシェフは、すべてを包丁で賄わず、シーンにあわせて道具をつかい分けるらしい。そう雑貨店の店員に聞き、手ごろ価格も相まって、サブプレゼントとした。
特訓の成果もあって、今日のケーキは最高の仕上がり。これなら料理上手な綾人に見せても、恥かしくのないレベルだと思う。
ラッピングも可愛くできたし、私自身の支度もととのえた。今の時刻は午前六時二十分。まだ綾人はベッドで夢のなかに違いない。
今日は学校もバイトもお休みだから、綾人は昼まで寝ると言っていた。合鍵は預かってるし、こっそり伺って驚かせよう。
由衣はテーブルに置いたケーキを眺めながら、今まで言えなかった気持ちを伝えて、笑顔のまま彼を祝福してあげようと、そう心に誓うのであった。