嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 あっという間に時間は過ぎてしまい、日も陰り辺りにはイルミネーションの光が付き始めた。

 愛輝は寒さを感じマフラーの中にクビを竦めた。


「おい! 腹減った。そろそろ晩飯にしなか?」

 真二が、小さくため息を着いた。


「うん。もうこんな時間… お腹すいた、レストランに入ろう」

 のどかがパンフレットを広げ、近くのレストランを指した。


 愛輝は、レストランのテーブルに座り、カップのスープを両手で包み込んで手を温めた。


「愛輝さん時間いいの? 家の人心配してないか?」

 真二が初めて愛輝に声を掛けた。


「大丈夫です。遅くなるって言ってあるので」

 愛輝の胸はドキドキと音を鳴らし始めた。


「大丈夫よ! 昨日、愛輝さんのお父さんにディズニーランドに一緒に行くって伝えておいたから」

 のどかが、自慢気に言った。


「えっ。パパに言ったの?」

 愛輝の胸の鼓動は一瞬にして収まり、驚いた声を上げた。


「うん。あんまり嬉しくて言っちゃった。おじさんも行きたかったみたい。そうそう、夕飯に使えってもらったんだった」

 のどかは鞄から、封筒を出した。

 中にはディズニーのギフト券が入っていた。


 まあ、拓真ものどかと一緒だから、別に心配もしてはいないだろう……


「お前、早く言えよ!」

 真二がのどかを睨む。


「じゃあ、せっかくだからこれで支払いましょう!」

 愛輝が笑顔で言った。


「いいのか?」

 真二が申し訳なさそうな顔で言った。


「もちろんよ。それならケーキもたのんじゃおう!」


「私も食べたい」

 のどかがメニューを広げた。


「おい! 俺も食べたい…」

 真二の言葉に三人は笑い出した。

 こんな時間が、ずっと続けばいいのに、

 愛輝は祈らずにはいられなかった。




 レストランを出ると、おみやげを買いにワールドバザールへ向かった。週末の夜はさすが混んでいる。

 愛輝は美香とばあやに、ミッキーの缶に入ったクッキーを買った。

 のどかもおみやげを抱え、まだ何か迷っているようだ…… 

 愛輝は店を出ると、ふらっと得に意味も無くアクセサリーショップの中へ入った。

 愛輝の目に、ガラスの靴の形をモチーフにしたペンダントが映った。
 シルバーにピンクの石が付きキラキラと光っている。


「気に入ったのか?」

 後ろからの真二の声に、愛輝は驚いてペンダントから目を離した。


「そう言う訳じゃ…… もし、魔法が掛かる前に、シンデレラが王子様に会っていたらどうなっていたのかな?」

 愛輝は自分でも、何故こんな質問を真二にしてしまったのか分からない。


「えっ。別に王子はドレスが気に入った訳じゃないだろう? 魔法はただのきっかけに過ぎないんじゃないのか? まあ、今で言うなら『出会い』ってやつかな?」

 以外にも、真面目に答えてくれた真二が、愛輝はなんだか嬉しかった。


「ああ。真二さん面白い事考えるんですね…」

「おい…… お前が変な質問したんだろう!」


「あっ。そうだった。ごめんなさい……」

 愛輝は舌を出した。


「これ、欲しいのか」

 真二がペンダントに手を掛けた。


「こういうの、私似合わないし……」

 愛輝は慌て首を横にして言った。


「マフラー外してみろよ」

 真二はペンダントを手に取った。

「えっ」

 驚きながらも、言われた通りにマフラーを外した愛輝の首に、真二がペンダントを当てた。

 愛輝はドキドキし、顔が熱くなったのが分かった。


「似合うじゃないか。俺が買ってやるよ」

「えっ。そんな……」

 愛輝は驚き、声が詰まってしまい断わるタイミングを失っていた。


「いいよ。のどかが世話になったお礼だ」

 真二はペンダントを手にし、会計へと向かって行ってしまった。


 愛輝は驚きと嬉しさで、どうしていいか分からず立ち尽くしていた。

< 29 / 101 >

この作品をシェア

pagetop