嘘は輝(ひかり)への道しるべ
「私とお前のアメリカに居る父正人が、古い友人である事は知っているな?」


「はい、おやじから聞いています」


「正人の妹が彩と言って、お前達の母親だ。
 すごく綺麗でやさしくて、私は彩が好きだった…… だが、それ以上に私は、彩を芸能界にデビューをさせたくて、何度もスカウトしたが断られたよ。そのうち、私の事も嫌になったのだろう、あっさりと別の男と結婚してしまった。お前も生まれて、本当に幸せそうだった…… 

 愛輝が生まれて半年程経った時、アメリカから正人が愛輝の顔を見に来ることになって、正人はこの家に滞在して居てなぁ…… お前は正人になついていて、この家で正人と過ごしていたんだ。

 正人がアメリカに戻る日、お前を迎えに彩が来るはずだったんだが、予定の時間になっても来なくてなぁ……」

 拓真は深いため息を着き、そのまま話を続けた。


「今日と同じように、激しい雨が降り続いていて……… 警察からの電話で、彩が事故に遭ったと知ったんだ。慌ててお前を連れて、正人と病院に着いた時にはもう彩は…… 

 正人と私の手を握って、『子供達をお願い……』と言い残して逝ってしまった…… 

 大雨に車がスリップして、対向車にぶつかったらしい…… 運手していたお前達の父親は即死で、愛輝はチャイルドシートのお蔭で怪我一つなく無事だった」


「それで僕には、事故の記憶が無いんですね」

 祐介が今までの謎が解けたように肯いた。


「私と正人は、彩の死にショックで…… お前達二人を抱えて呆然となった……

 色々考えたんだが、正人はアメリカでの仕事が起動に乗った所で、祐介も正人になついていたし、アメリカに連れて行くのに問題は無かったが、生まれたばかりの愛輝を、とても正人一人でアメリカで育てる事は出来なかったんだ… 

 そこで、体が弱くてとても子供など生める体じゃ無かった妻が、愛輝の母親になりたいと言い出したんだ。あの時はそれしか方法が無かったんだよ…… 

 お前がアメリカに行く時、愛輝も連れて行くと大泣きしてな、愛輝も火が付いたように泣き出して、私と正人も泣きながら、お前達をそれぞれ抱く事しか出来なかった……」

 拓真の目に涙が滲んだ。


「僕も、愛輝と離れた時の事だけ記憶に残っています。大人になったら必ず迎えてに来ると、あの時決めました。アメリカから、おじさんの家に遊びに来る度に、愛輝を連れて帰ろうって思っていました。

 でも、愛輝は僕の事を覚えていないし、おじさんを父だと信じて幸せな姿に、とても言えなかった……」

 祐介は寂し気な目をした。


「お前が一番辛かったのかもしれないな?」

 拓真が祐介を切ない目で見る姿は、長い間背負ってきた重みと、父として愛輝を思う気持ちがずっしりと伝わるようだ。


「僕も、おやじとアメリカで結構楽しく暮らしてきたし…… おじさんには、愛輝の事、大切に育ててもらって感謝しています」

 祐介はすっと背筋を伸ばし拓真を見た。


「私は、一度も愛輝を他人だなんて思った事もない。この家で愛輝を抱いた時から、私の娘だ…… これからも……」


 拓真の部屋のドアの横で聞いていた愛輝は、頭の中で祐介と拓真の言葉を理解する事が出来ず、立っているのがやっとだった。

 フラフラと壁に寄り掛かると、廊下に飾ってあった額に入った絵が『ガタッ』と音を立てた。


「誰かいるのか!」


 祐介がドアを開けた。
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