黒の村娘といにしえの赤鬼
ミーンミーンミーン…。
ジリジリジリ…。


「うーん…」

早朝から蝉たちは元気だ。
私はそんな蝉の音を聞きながら、まだ夢の中にまどろんでいた。

それもつかの間、廊下からばたばたとこちらへ向かってくる音が聞こえる。


「珠々様!ふみでございます!大変です、若君がこちらに…!」
「えっ!?こんな朝っぱらから!?」


支度をしなきゃと起き上がると時既に遅し。


「珠々!早朝の散歩だ!行くぞ!」

朝からご機嫌な時雨は仁王立ちですっきりした笑顔を見せていた。
朝に強いんだな、この人…。

「分かったから待って。私今起きたばかりなの。支度が終わるまで廊下で待ってて」

時雨は素直におうよ!と言うと私はあくびをしながらふみさんと一緒に身支度を整える。


「何だかご機嫌がよろしいですね」

そう言いながらふふっと笑うふみさん。
最近まで時雨が忙しかった理由を話すと、愛されていますねと更に笑顔になった。


「はい、お支度完了でございます」
「ありがとう、ふみさん」


今朝の服装は散歩に丁度いい少し楽な格好だ。
時雨もそんな感じの服装だからせっかくだし色合いも合わせてみた。


「お待たせしました」

部屋の襖を開けると廊下の柱に寄りかかっている時雨を見つけた。
ふとこちらに気づくと上から下までしっかり確認され、太鼓判をもらえたようだ。
そしてふみさんたち女中が朝食を用意しておきますと言いつつ玄関でお見送りすると、私たちは村の集落へ向かった。

まだ早朝なので鬼の出方はまばらだが、私がこうして集落をゆっくり見たのは初めてかもしれない。
そんな私に気を使ってか時雨はいろいろと説明しながら歩いてくれた。
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