黒の村娘といにしえの赤鬼
「あっ、これはねっ、ほら、夫婦になるんだし、これくらいしてもいいかな、と…」
「お前…」
「っ…!」

今度は時雨がにやりと含んだ笑みを浮かべ、畳の上に私を組み敷く。
近すぎてお互いの心臓がどくどくと聞こえてきそうだ。


「今ここでお前を奪いたい、珠々」

「時雨…」


前に組み敷かれた時とは違う、優しくてどきどきする…。
時雨の目線は熱を帯びていて、満更でもないようだ。


「時雨…。鬼の世界でも婚姻前の男女はその…交わっていいの?」
「そっ、それは…」


私がそう言うと時雨はすっと私の上からどく。
すると私に聞こえるか聞こえない声で…ぶなかった…と言ったのだった。


「…」
「…」


それから二人とも沈黙を貫き、何だか気まずい雰囲気になった空気は重くて息がしづらい。

そんな中先に声を出したのは時雨だった。


「そ、そうだ!最近全く珠々に会えてなかっただろう?寂しい思いをさせて悪かった。やる事を前倒しでやっていたものだから中々時間が取れず…」
「そうだったのね。もう、最初から言ってくれればいいのに」
「本当に悪かった。でも今日からは毎日一緒だ。…ほら、梅雨も明けたみたいだぞ」


そう言われて襖を開けると夏の眩しい太陽が部屋に差し込んできて思わず目を瞑ってしまう程だった。

秋の婚姻予定日まで約二ヶ月…。

それは太陽よりも熱い?真夏の日々の始まりだった。
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