唇に、ちよこれいと
「めんどくせぇ。……呪われそうだろ」


じっと私の目を見つめながらシニカルに笑う蓮見さんは、私の手が止まったのを確認して最後のチョコレートをゴミ箱へ抛り去った。


さいてい。


そのチョコレートにどれだけの熱量が込められているか、わかっているくせに。

いや、わかっているからこそ、こうしてすべてを切り捨てているのだろうが、私には不愉快にしか映らなかった。


「終わりました」

「随分と早く終わったな」


蓮見さんが笑いをかみ殺すように言ったのを見て、ますます気分が下がっていく。この男は私の感情を逆なでするのがあまりにも得意だった。

白々しく、早いと言ったその意味をいくつも考えて、やはり嫌味でしかないのだろうと決めた。こんな作業ですら満足にできないのかと言われていると思うとプライドが傷つけられる。

やはり完成した段階でUSBにでも突っ込んでおくべきだった、と、何度目かもわからない後悔が思考を巡った。何をどうやり過ごしても、この男には叶わない。私はそのことを十分に理解させられていた。

もともと何年も社会経験のある男に勝てるわけもない。その上飛ぶ鳥を落とす勢いで出世しているこの男に私が勝つことなどありえないのだろう。

それでも、“使えない女”だと判定されるのが嫌で、ここまで何の私情も挟まず、ひたすらがむしゃらにやってきた。

休日も返上したし、今日のようにサービス残業だってしてきた。それなのに。

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