唇に、ちよこれいと
この場所から駅までは15分ほどかかる。それを考えても、終電まではまだ余裕があった。そのことを確認して軽く息を吐く。

何が楽しくて、好きでもない上司とこんな時間まで過ごしてしまったのか。


蓮見さんは相変わらず、この会社にいるほとんどの独身女性社員からもらったであろうチョコレートをゴミ箱に突っ込んでいく作業を続けていた。


つくづく、嫌味な男だ。

成績優秀、眉目秀麗、独身貴族と来たら、それはそれは引く手数多なのだろう。

しかもこの男は猫をかぶっている。


私の前では聞くのも恐ろしいような悪態を吐く癖に、外面だけは完璧だった。

私もその外面で接してほしいくらいだ。


何一つ不便のなさそうな男。その完璧なまでもの振る舞いの裏に、ここまでの冷血さを秘めているとはまさか誰も気づいていないのだろう。


「……せめてご自宅で捨てたらどうですか」


最後の作業を終えた私が上書き保存をしながら呟けば、蓮見さんは既に私の目を見つめていた。

その目が、私は苦手だった。
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