七月八日のながれぼし




だから彼の記憶がなくなったと聞いた時、あまりにも現実味がなくて、あたしはなかなか事態を理解することができなかった。

なにも覚えていなかったと聞いたのに、それでもまだ、頭のどこかで大丈夫じゃないか、なんて思っていた。



だけどミツルは、1年後に再会した彼は、もうあたしの知る恋しい人ではなかった。

ふたりの約束は流れ星になってしまった。



『みんなあたしのこと、ナツって呼ぶから、そう呼んで』

『わかった』

『……ミツ、明日の七夕祭り、一緒に行こうね』



お互いの呼び方をなかったことにして、消してしまった。

ただでさえなくなってしまった思い出を、自分の我儘で還らないものにしてしまったんだ。



それはまるで、ミツルを、殺したかのようだった。



それでも、彼はミツルではないと思ったし、あたしをナツキと呼んでいいのはミツルだけだと思った。

……思ってしまった。



あの日の感情は記憶に新しい。

薄れることなくあたしの中にあり、今も空に浮かんであたしを見下ろしている。



激しい想いをなだめるように、星はとても静かだ。

いくつもの小さな粒が集まるようにして、天の川は作られる。

星の流れをなぞるように、指先で空を辿った。






< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop