喫茶リリィで癒しの時間を。
「なんかいいなぁ、こういうの」
「こういうの、とは?」とさゆりさんが尋ねる。
「和気藹々と会話を楽しみながら食事をするなんてこと、就職してから全くなくなったので。田舎から出てきたので、近くに知り合いもいない状態なんです。実家が懐かしくなってきました」
楽しそうにしていると思ったら、今度は切なそうな表情をする小林さん。彼の気持ちが、俺にはいまいちわからなかった。
「私も独り暮らしをしているからわかります。ひとり部屋でご飯を食べるのって、寂しいですよね。誰かと一緒に食べたほうがおいしく感じます」
「はい。就職と同時に独り暮らしをして、初めて親のありがたみがわかりましたよ」
「……そういうもんなんすねぇ」
さゆりさんはしみじみうなずいている。俺はやっぱりピンとこない。
親なんて口うるさくて、面倒だと思っていたけれど、大人になって自立したら変わるのだろうか?
二人の気持ちがわからない、つまり、この中で俺だけがまだ自立していない。
年齢的に仕方ないことなんだろうけど、二人との間に見えない壁を感じてしまった。
――その時だった。完全オフモードの喫茶リリィに、来客を告げるドアベルが鳴ったのは。