喫茶リリィで癒しの時間を。

■竹内という男。

 
「……いらっしゃいませ!」


 さゆりさんは口に含んでいたものを急いで呑み込み、立ち上がって営業スマイルを作っていた。
 すぐにスイッチを切り替え接客モードになるあたり、プロだと感動した。


「さゆりさん、こんにちは。今日も変わらずお美しいですね」


「……相変わらず、竹内さんはお上手ですね」


 そして、その客の姿を目にして、すこしだけ笑顔がひきつっている。


 喫茶リリィでアルバイトをして約三ヶ月。さゆりさんは、どんなお客さんの前でも笑顔で丁寧な接客をしていた。
 常連であってもなくてもひいきせずに、平等に対応していた。


 しかし、この竹内という男にだけは違っていた。


「あれ? そこに座っているのはアルバイトくんじゃないか。何を食べているんだい?」


「どうもっす。えーと、肉じゃが食べてます」


「へえ、肉じゃがかあ……」


 竹内さんは俺たち三人を観察して、全員が肉じゃがを食べていることに気づいたようだった。

 彼は俺の隣に座ると、スタイルのよさを見せつけるかのように足を組んだ。
 ほんのりと香水の香りも漂っている。

 
 

 
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