年下属性はありません!
その後は本部での仕事の話などをしていると,いい時間になってきた。

「そろそろ出ますか」

ドンペリが立ち上がる。

「あ,ほんとに払います。先程のお料理とは金額が違いすぎてお返しにはならないでしょうけど」

「じゃあ,そうしてもらおうかな。慰謝料ということで」

相変わらずだな,と思う。

彼女であれば,ここも奢ってもらっても良かったが,お断りしたんだからもう対等な関係だ。

ここまで奢らせたら流石に可哀想だ。

「今元主任のホテルはどこですか?まさかここ?」

「ここだったらよいのですが,うちの会社はこんな高級ホテルに泊めてくれるほど羽振りはよくないですよ。この近くのしがないビジネスホテルです。」

そうだよな,こんなところに泊まれるのは会社内でも役員クラスだけだろう。

「でもそのビジネスホテルの朝食バイキング,けっこううまいんですよ」

にっこりと笑う。

意外に庶民的なことを言うんだな。これも彼の手の内かもしれないが,ほっこりする。

こんな人が彼氏だったら確かに楽しいかもしれない。

おしゃれなレストランに気の利いた会話。

でも,ちょっと疲れそうだ。

たまにだから楽しいけど,いつも気を張っていなきゃいけないのは私には無理だ。

できれば仕事以外はすっぴんがいいし,ジーンズにスニーカーが楽だ。



「じゃあ,私はあっちなので,この辺で」

「あ,送ります」

「大丈夫ですよ,ホテル,この近くなのに遠回りになってしまいますよ。」

夜遅い時間だが,会社帰りのサラリーマンで人通りは多い。

タクシー乗り場はすぐそこだ。

「男は少々遠回りしたっていいんですけどね。」

「そんなことないでしょう」

「じゃあ,今日はありがとうございました」

「こちらこそ!明日もよろしくお願いします」

そうだ,明日が最終日かと思い出す。

「はい,また明日」

そう言って私達は分かれた。
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