晴れのち曇り ときどき溺愛
「頼もしいな」

 そう言って下坂さんは優しく微笑んだ。


 夜の首都高速からの眺めは零したような煌めきが眩く。そして寂しく見えた。一つ一つの光りに私は思いを馳せる。一緒にいれる時間はあと僅か。その時間が過ぎれば魔法が解けたように現実に戻る。現実に戻った私はきっと笑えるだろう。


「俺の祖父は幾つ年を重ねても真っ直ぐに前を向いて昇って行く強さを持ったような人でずっと憧れている。正直、今も倒れたと聞いてもピンとこない。何かの間違いでないかと思うくらいで、電話口で聞こえた母の嗚咽が次第に遠くに聞こえるくらいで認めたくない自分の弱さを知った」

「誰でも大好きな人が倒れたと聞いたら弱くなると思います。それは弱さでも何でもないし、誰もがいつでも強くある必要はないです。時には自分の感情の赴くままに動くのも大事だと思います」

「感情の赴くまま?」

「はい。泣きたい時に泣くのは大事なことです。でも、まだ、下坂さんは泣いてはダメです。お祖父さんはきっとよくなります。そう思っているうちは泣いたらいけないです」

「まだ泣けないな」

「はい」


 首都高速を降り、一般道に入って真っ直ぐ私のマンションに向かって走りながら、下坂さんは自分の事を話し出した。下坂さんは右手でハンドルを握り、左手はそっと自分の口元を覆っていた。ちょうど一時間くらい経った頃、下坂さんの運転する車は私のマンションの近くまで来ていた。
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