晴れのち曇り ときどき溺愛
『帰りたくない』と言えればよかったんだけど自分の心を吐露するのは怖かった。ここに下坂さんが来ているのはプロジェクトの事もあったからで、決して私に会いにきたわけではない。

「送ってくださってありがとうございます」

 マンションの前に車が停まると夢の時間は終わり、現実へ戻る時間になっていた。下坂さんは律儀にも一時間ちょうどにマンションの前に戻ってきてくれていた。

 下坂さんは車のエンジンを止めると私の方を見て少し顔を緩める。一時間前よりは少しは表情も穏やかになっていて、ホッとした。


「明日も仕事があるのに付き合わせて悪かった。でも、ドライブに付き合ってくれたおかげで気持ちが落ち着いたよ。本当にありがとう」


 私も楽しかった。話せば話すほど好きになるのには困ったけど、それでも一緒の時間を過ごせてよかったと思う。


「明日は何時の飛行機ですか?」

「まだ、航空会社に手配している途中なんだ。祖父の体調のことは伏せられているから、俺も母も同じ飛行機に搭乗するにしても別行動しないといけないし、かといって母を一人で行かせるわけにもいかないし。現地に祖父の秘書がいるから連絡をしてみる。秘書のことを忘れているなんて俺もかなり動揺していたんだな」


「気を付けて行ってきてください。プロジェクトの方は見城さんと一緒に頑張ります」

「出来るだけ早く帰るし、連絡もする」

「はい。それでは失礼します」
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