晴れのち曇り ときどき溺愛
 私は個別面談は一番最後だった。それまでの時間は仕事をして時間を過ごす。見城さんは別の仕事があるというので早々に面談を終わらせ、営業室を出て行き、井上さんと絵里菜さんも出掛けてしまった。

「梨佳ちゃん。室長が呼んでるよ」

 斉藤さんは手に持ってた資料を机に置きながら肩を落とす。朝は元気だったのに、今は一日仕事を終らせたかのように疲れていた。

「大丈夫ですか?」

「うーん。今日の室長は優しいけど、赤ペンを走らせたよ。やり直しがいっぱいだ」

 斉藤さんもこの二週間の間、自分なりに仕事をしていたのだろうけど、それでもチェックは入る。斉藤さんがこんなにもチェックされるなら、きっと、私は赤ペンのインクが切れるかもしれない。私も資料を持って応接室に入るとそこにはテーブルの上にたくさんの資料を並べ見ている下坂さんがいた。

「お疲れ様です」

 そう言って席に座ると下坂さんはニッコリと笑った。

「長い間、留守にして済まなかった。祖父も少しは持ち直したので日本に帰国出来た。これからが大変だけど、海外に居るよりはいい」

「大変でしたね」

「既に引退して会社を父に譲っている祖父の体調一つで株価が左右される。そんな家が嫌でこの会社に来たのに、結局は自分の実力では評価されずに引き戻される。そのうち聞くことになると思うけど、俺はこの会社を辞めることになる。今のプロジェクトが俺が出来る最後の仕事になるかもしれない」

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