晴れのち曇り ときどき溺愛
 見城さんさえいてくれたら気まずい思いはせずに済んだのにと思うけど席がないなら仕方ないし。引き留めることは出来なかった。私は自分の腕の辺りに緊張を走らせていた。でも、下坂さんはゆったりと寛ぎを見せていた。


「何にする?おすすめは日替わりの天麩羅定食なんだけど、他にも煮魚とかもあるから好きなものを選んだらいいよ」

「天麩羅定食でお願いします」

「他にも色々あるけどいいの?」

「はい。本当に天麩羅好きなんで」


 下坂さんはカウンターの奥に注文すると、おしぼりで手を拭きながらフッと息を吐いた。店内には少しの話し声はするものの、黙々と食べている人が多い。

「仕事、面白くないだろ。営業補佐は雑務が主になるから」

 天麩羅が揚がる音を聞きながら横から聞こえた声に振り向くと綺麗な横顔がそこにはあった。パッと視線を外し、当たり障りのない言葉を探す。


「営業補佐というのが何をしたらいいのか分からないので正直戸惑ってます」

「今まで営業として働いているのとは違い過ぎるだろう。慣れるまで時間が掛かるだろうがゆっくりとでもいいから確実に仕事を覚えて欲しいと思っている」

「はい」

「お待たせ。日替わりの天麩羅定食二つね」


 目の前には揚げたての天麩羅定食が置かれた。ご飯にお味噌汁、小鉢に天麩羅という典型的な定食なのに、天麩羅がとっても美味しそう。海老に椎茸。茄子にインゲン。そして、人参と南瓜。昼の日替わり定食にしては豪華な内容だった。


「美味しそうです」

「美味しいよ。おすすめだから」
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