魅惑への助走
***


 「今宵はハロウィンだ。パンプキンより甘いお前を食わせろ」


 キッチンでパンプキンプリンを冷蔵庫から取り出す彼女を、男は強引に抱き寄せる。


 設定としては、多忙な彼氏を一途に待ち続ける彼女。


 仕事を理由に、約束を一日伸ばしにし続ける男。


 しかし職場でカレンダーを見た時、今日がハロウィン(10月31日)であることに気づく。


 すなわちそれは、二人が付き合い始めた思い出の日。


 忙しさにかまけて、いつも大切な人を待たせてばかりだと男は反省し、彼女の待つ部屋へと急ぐ。


 彼女はハロウィンと交際開始日記念に、思い出のパンプキンプリンを準備していた。


 男は一口味わうが、それよりも一秒でも早く彼女を抱きたくて……。


 「か、片桐(かたぎり)さん」


 キッチンにてエプロン姿の彼女と、そのまま行為に及ぼうとするAV男優に対し、さすがに監督の榊原さんはストップをかけた。


 「このシーンはまず寝室に移動して。そしてベッドの上で、ハロウィンの由来のうんちくを語りながら、って設定で」


 「はあ? やる前にあんな長ったらしいセリフ口にしてられるかよ」


 AV男優片桐は異議を唱えた。
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