魅惑への助走
 「でもけじめをつけられるのなら、彼女いてもいいんじゃない? 上杉くんの支えになってくれるような可愛い子が、誰かいても」


 「あはは。どこかでご縁があったらね」


 そうは答えたものの、上杉くんは全く恋人を作る意向はなかったようだ。


 心に余裕がなかったというか。


 「じゃ、上杉くんに誰かいい人が見つかるまで、私が代役で仲良くさせてもらってもいい?」


 「俺も。武田さんに素敵な彼氏が見つかるまで。メシ相手にでも」


 この当時の私たちは、お互いを対等だとは思っていなかった。


 すでに社会に出ており、男性経験も多い私を、上杉くんは先輩もしくは姉のように慕っていたっぽいし。


 私は逆に、弟というか息子を見守るような感じで、上杉くんを応援していた。


 未だ恋愛感情など宿さぬままに。
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