魅惑への助走
 「……明美ちゃんのために、特別に便宜を図ってあげようか?」


 何度か持ち込みをしていた出版社の担当の人に、ある日そう持ちかけられた。


 「本当ですか? ありがとうございます」


 本格デビューへの光明が見えたと思い、無邪気に喜んだ。


 ただし向こうもビジネス、見返りのない提案などしてこない。


 私をプッシュする見返りに、要求されたのは……体。


 肉体関係を求められた。


 「え?」


 言われた時は躊躇したけれど、結局編集者と一緒にホテルに行った。


 相手は妻帯者。


 不倫、しかもただの遊び。


 いいように遊ばれているのは、さすがに分かっていた。


 ……どうせ初めてじゃないし。


 「明美ちゃんはほんと、いい体してるね。いつか売れっ子美人作家として、デビューさせてあげるからね」


 「楽しみにしています……」


 こういうのは歌手や女優志望の子も、体験することが多いのだろうか。


 そのご褒美として、出版社の広報誌などに私の短いコラムなどが掲載されるようになった。


 だけど収入は微々たるもの。


 ホテルで男が私に手渡すお小遣いのほうが、よっぽど高収入だ。
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