魅惑への助走
 「宅飲み? いいよ。金魚、大きめの袋にたっぷり空気は入れてもらったけど、あまりやかましいところを長時間連れ回したらストレスになるだろうしね」


 難なく同意してくれて一安心。


 遠慮されでもしたら私も引っ込みが付かなくなり気まずいので、本当によかった。


 「ならホームセンターの後、スーパーでビールなども買って、私の家に向かうってことで。ここからなら歩いて15分くらいだから」


 「でも武田さん、いきなりお邪魔して迷惑じゃない?」


 「全然。たまには宅飲みもいいってことで」


 話がまとまり、ベンチを後にした。


 花火大会帰りの混雑の中、私たちは並んで歩き、商店街を出てホームセンターに向かった。


 そこで金魚飼育セットを二千円弱で購入し、次はスーパーに立ち寄る。


 ビール……と思ったけど高いので、発泡酒で代用し、その他お惣菜やおつまみなどを選ぶ。


 「この時間帯に来店すると、閉店前の売り尽くし半額セールが始まっていてお買い得なんだ」


 これから甘い展開に持ち込もうという獲物の前で、ちょっとみみっちいかとも反省したけれど。


 浪人中であまり贅沢のできない上杉くんも、喜んで半額のお惣菜を選んでいた。
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