魅惑への助走
 「そうだ、今日の午後から一本撮影が入ってるんだ。明美ちゃん午後はヒマ? 時間あれば現場見学に来ない?」


 「ええっ」


 最初は戸惑ったけれど。


 先輩に押し切られて、午後からの撮影に付き合うことになってしまった。


 AVの撮影現場の見学なんて、もちろん初めて。


 テレビドラマや映画の撮影みたいな感じなのかな……?


 さっき先輩には、卒業後も執筆時間確保のため就職はせず、バイト生活を続けている話はした。


 今は早朝~午前中のコンビニのバイト。


 それだけじゃ当然、一人暮らしに必要な稼ぎは得られない。


 足りない分は学生時代の貯金を切り崩すの……体を与えた男たちからもらったお小遣いなどで、何とかやりくり。


 先輩のほうは卒業後は派遣社員として働きながら、時代小説を執筆し各種公募にチャレンジの日々。


 ……だったはずが今では、某大手AVメーカーにて原作を提供、脚本まで手がけその他雑務もこなし、製作現場で働いているという。


 今では正社員に昇格し、成果に見合った報酬も得ていると。


 「時間が取れたら、本来の予定である時代小説執筆を再開するはずだったんだけどね。仕事が詰まっていてなかなか」


 夢の途中で曲がり道をしてしまい、そのまま後戻りできなくなっているのが、後悔といえば後悔なようだ。


 「……で、明美ちゃんは、さっきどうしてあのビルの前にいたの?」
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