魅惑への助走
 「私、彼氏なんていないよ」


 「えっ、当然いると思っていた」


 上杉くんはかなり驚いていた。


 高校三年の頃は、卒業してしまった先輩とはすでに別れていて。


 フリーではあったのだけど、受験勉強で忙しかったし、翌年上京することを決めていたので。


 離れ離れになる可能性大ってこともあり、積極的に次の相手を探す気にもなれなかった。


 とはいえ友達の恋愛相談には、一歩上の立場からアドバイスしたりしていたので、そういうのを見ていた周囲の人たちは、私をかなり経験豊富だと思っていたらしい。


 「意外。武田さんなら絶え間なく彼氏が見つかるようなイメージだから」


 「全然だよ。大学時代も、今もほとんど……」


 体だけの関係の男は、いないわけではなかった。


 ただそれだけ、夜を重ねる度に空しさを感じる関係ばかり。


 「上杉くんはどうなの?」


 「俺も……。勉強ばかりで、恋愛している余裕なんてなかったし」


 受験勉強もあるし、身分の安定しない現在の状態では、色恋沙汰には夢中になれない……と語っていた。
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