スリーアウトになる前に。
彼が席を外している間にそんな昔の自分を振り返っていたら、カウンターに置きっぱなしの沢田くんの携帯が震え始めた。

切れてもしばらくするとまた震え出し、なかなかにしつこい。ディスプレイには女の子の名前。これは何か急用か、ややこしい関係の相手か。

戻って来た沢田くんに「鳴ってたよ」と伝えると、ちらりとチェックした顔が少し歪んだ。後者だね、これは。ややこしい相手。

途端にまた動き出したスマホを凝視してるので「出たら?」と声を掛けると、沢田くんは耳に当てて話し出した。

「どうした?」

迷惑そうな声を出そうとして出し切れてない、困ったような口調。

長くなるかな、なんでここで話すのよ、と私も困った気持ちになるけれど、しばらく黙っていた彼はあっさり話を終わらせた。

「スリーアウトって前にも言った通り。俺は決めたことは変えないって。今デート中だから、切るよ」

うわ、バッサリ。

「言っちゃっていいの? デートとか」

「俺は一応そのつもりですよ?」

傷ついたようなその声にちらりと嬉しくなりつつ、いや振り回されるなと理性が告げる。


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