手のひら王子様
さっきから淡々と語ってくれる椿雪さんの表情も口調も真剣なんだけど……。



内容がなんていうか……椋太朗らしくて気が抜けてしまう。



「見かねた旦那様がこの精密な手のひらサイズの椋様を作ってくださり……椋様は念願だったアナタの元に向かったんです」



椿雪さんが片手に握って居た椋太朗の人形に目を落とした。




人形に入って動くってのもすごいけど……それをあっさり認めて受け入れてる支倉家の大人たちもすごい……。



さすが、椋太朗の身内。



「気が済んだら帰るように言ったんですが……結局一週間も行きっぱなしで」



ご迷惑おかけしました……。



こう言って深々と頭を下げる椿雪さんに、わたしも慌ててお辞儀をした。




「じゃあ……椋太朗の意識は」



「この中からご自分で出て行ったのなら、そろそろ本体に戻られるんでしょう」



こう言いながら椿雪さんが、わたしを一つの部屋へと通してくれた。



「……初対面、でしょう? 本物の椋様とは」



椿雪さんは優しい微笑みで、わたしを中に誘ってくれる。



部屋の前で立ち尽くしていたわたしは、ゆっくりと中へ進んだ。
< 53 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop