今度産む


しんと静まり返った部屋。
キッチンの水道の蛇口の水の、ポチャンと洗いおけに落ちる音が響く。


オレの過去と女の突飛な言動は関係ない。

「……オレのほうこそごめん」

だけど、この女には同じ過ちを繰り返してほしくない。
ここでオレがやすやすと女を受け入れればきっと同じことをし続けるだろう。
それがどんなに苦しいことか。


目の前の女はオレの顔を不思議そうに見ている。

「どうしたの?」

「え?」

それはこっちの台詞だ。

「ううん。泣いてるから」

え?

目元に手を当てると確かに涙が出ていた。

あぁ……。

それを自覚するともうダメで、涙はもうとまりそうもなかった。


「大丈夫?」

見かねたのか、女はそっと包み込んでくれる。

さっきまでの妖艶さはない。

おそらくはオレのほうが年上なのだろうけれど、まるでオレのほうが年下みたいだ。

やさしく包まれるとますます涙があふれてくる、後悔の念とともに。


あぁ、そうだ。
思い出した。

ヤケ酒をして帰りしなナンパしたんだった。


昨日は元カノが最近結婚したって友人からきいて……。


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