海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
卒業まで1ヶ月を切った頃、これから住む新しい部屋を一緒に探しに行った。


本当は一緒に住みたいと思っていたけれど、お互いの両親の反対を受けて、


結局それぞれ一人で生活するという事が、私が着いていく事を許可する条件の一つになっていた。


まずは大和が住む部屋だけを決めて、私は新しい仕事が見つかり次第、部屋を決める事にした。


それまでは大和の部屋に泊まらせてもらう事になる。


期間限定の同棲生活。


その後それぞれが一人で住んだとしても、半同棲状態になる事は目に見えていた。




まだ寒さが残る、2月下旬。


「さくが来るのを待ってる。」


卒業式を終えた大和が、そう言って私よりも一足早く、これから住む新しい街へと引っ越していった。


『早く大和に会いたい…。』


そんな想いを抱えながら引越しの準備をし、同僚や瑞穂、他の友人との別れを惜しんだ。


親しい人との別れは本当に寂しかったけれど、大和がいない生活はもっと寂しく感じていた。




大和の旅立ちから、約1ヶ月遅れの3月。



「行ってきます。」


私は両親にそう告げると、到着したバスに乗り込んで大和が待つ街へと旅立った。



これから私が向かうのは、相葉先生のいない街。


もう、無意識にその姿を探す事もなくなるのだろう。


バスの窓から子供の頃からずっと見てきた街の景色を眺めていた。




『河原も幸せになれ…。』


最後に相葉先生と電話で話した時に言われた言葉が、ふと頭の中を過ぎった。



『相葉先生…。

私も自分の幸せを見つけます。

見つけてもいいですよね、先生…。』



心の中で相葉先生に問い掛けながら、過ぎていく景色を見つめている内にじわじわと涙が込み上げてきた。


これから始まる生活に期待をしつつも、沢山の思い出との別れに切なさを感じたから。


胸が苦しかった。


無性に泣けてきたけれど、ぐっと堪えて私は静かに涙を拭った。
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